秋宵

 

少しずつ長くなっていく夜に合わせるように、普段着る洋服の袖も少しずつ伸びていく。

今年も気付けば秋の中を生きている私たち。


読書の秋、食欲の秋、スポーツの秋、芸術の秋、色んな秋だと人は言う。私にとって今年の秋は、何の秋と言えるだろう。


例えば窓を開けて、涼しくなった秋の夜風を楽しみながら、飲み物と共に寛ぐ時間。気心知れた相手と語らいながら夜道を歩く秋の時間。焼き芋の香り、薄くなっていく雲、色を変えて落ちていく緑たち、軽く透き通っていく空気と共に過ごす時間。


もしかするとその美しい時間たちに名前なんて、言葉なんて必要無いのかも知れない。けれどそれでも、もしも名前をつけたなら、似合う言葉を見つけることができたのならば、私はその時間のことを、その言葉のおかげで来年も再来年も思い出しては味わうことができるかもしれないとも思う。そんな誘惑に駆られてもう暫く、私の中の秋について、物思いに耽り、やがて眠りに落ちていく夜。


手に入れたいもの、訪れたい場所、味わいたい飲み物食べ物、選び楽しむ映画に書籍に芸術たち。秋の夜長に抱くそんな等身大の希望たち。今の私があなたが自分自身が本心で求めている事を実は顕著に表していたりするかもしれない物事たち。もうずっと抱えたまま、一緒に春を超え夏を超え、過ごしてきたかもしれない想いたち。


望むなら私はあなたは、秋の夜長を理由に添えて、美しい希望たちへと手を伸ばせる。頭の中にずっとあった憧れたちへと辿り着ける。秋の夜長は、そんな風に静かで強かな気持ちになれる束の間を与えてくれる。


ずっと手を出せずにいた長い長い物語。そのページを捲る指先。観よう観ようと思っていたまま記憶のどこかへ追いやっていた名作と呼ばれるロードムービー。その美しい情景を眺める眼差し。もう暫く考える暇も無かった、それでも自分の中に居座り続けた夢や希望と向き合うひと時。窓から流れ込む夜の優しい風が撫でる肌。


秋の夜長という言葉が表す夜景の中、ゆらりゆらりと小さく、自分の中で暖かく燃える優しい希望に照らされ過ごすひと時を想像する。


私にとっての、あなたにとっての秋を、窓の外の透き通った月夜に思い描く。